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第18章 19世紀半ば以前の東アジアの地域交流(2)

むろん、以上の三例は東アジアの儒学の全貌を概括することができない。しかし、これらの例からも分かるように、数千年伝わることによって、孔子およびその学説は、国境を超えて東アジア諸民族の共通した文化遺産となっている。もとより、東アジア諸国の儒学は、それぞれ次元と形態に相違があり、儒学や儒教などの異なる名称を使っている。しかし、総合してみれば、それは決して非常に遠く離れたものではなく、一衣帯水、相互依存の関係にあるのである。「忠孝」、「仁愛」、「信義」、「平和」および「己の欲さぬことを他人に施すな」、「己を立てようとすれば人を立てよ」、「民に仁をなし物を愛す」、「民はわが同胞であり、物はわれが与える」などの考え方は、東アジア諸国人民の心に共有され、共通の価値観と倫理的基礎となっている。グローバル化と生態危機に直面している現在、「天人合一」、「調和が取れている共生」、「中和を致して天地位し、万物育す」という儒学的知恵は、東アジア諸国の国際交流と文明対話の共有した理念であるばかりでなく、東アジア諸国が人類の文明に貢献する貴重な文化財産でもある。

最後に、中国著名な社会学者·費孝通先生の言葉をもってこの報告を終え、皆様と共に励まし合いたい。この言葉とは、「各々の美を美にし、人の美を美にし、美と美を共にし、天下大同になる」と言う。

(區建英 訳)

回族と中央アジア·西アジアとの文化関係

北京師範大学教授 王東平

中国は多民族国家である。56の民族のうち、イスラーム教を信仰する民族は10個あり、人口総数は1800万人にもある。回族は、中国のイスラーム教を信仰する民族の中で最も人口が多い民族であり、現在861万2千人の人口を有している。回族の分布は広範囲にわたり、中国全土の大多数の県、市にも回族が暮らしている。

回族は外来の民族(中央アジア、アラビア、ペルシャなどの地域のムスリム)と中国国内の民族が長期にわたる発展の中で、相互融合して形成したものである。中国内陸におけるイスラーム教の普及と発展において、回族が重要な役割を果たした。

イスラーム教が7世紀にアラビア半島で形成した。イスラーム教が誕生したばかりの頃から、ムスリムが海路を経て中国に来た。唐·宋時代に、中国の海外貿易が繁盛であった都市、例えば、広州、泉州等の都市には、多くのアラビアや、ペルシャなどの地域からやって来たムスリムが生活していた。歴史文献では、彼らを「蕃商」、「蕃客」と呼んでいる。このようなムスリムが中国に居住し、現地の中国人と結婚し、家庭を持ち、土地や家屋を購入し、繁栄してきた。唐·宋時代に、中国で定住したムスリムおよびその子孫は回族の先祖だと思われる。

イスラーム教の中国における普及は13世紀から14世紀、モンゴル支配の元の時代であった。モンゴルが西へ遠征し、多くのイスラーム地域を征服したため、数多くの中央アジア人、ペルシャ人、アラビア人が東への移住を余儀なくされた。その後、モンゴル人にしたがって中原地域を征服し、南宋を滅ぼした。これら「回回」と呼ばれるムスリムが各地に行き渡った。文献の中では、「回回人が天下の至る所にいる」と記している。明代にも引き続いて、周辺地域のムスリムが中原の漢人居住地へ移住した。学界では、回族の形成時期は明代であると一般的に思われている。この時代には、民族意識が高まり、漢語(現在の中国語)が諸民族の共通言語となった。中原地域において、広い地区に分散し、小さな地区に集合して住むという構図が形成された。

回族はイスラーム教を信仰するのは、アラビア、ペルシャ起源のイスラーム文化が回族文化の形成と発展に大きな影響を及ぼしたからである。回族ムスリムが中国社会の中で生活し発展してきたが、終始、その宗教信仰を厳しく守り続けている。つまり、歴史文献に言う「厳奉尊信」(尊い信仰を厳しく奉じる)、「守教不替」(教を守って替わらない)である。回族の居住地にはモスクはあり、アホーンやマンラなどの宗教職業者がいる。回族ムスリムは、イスラーム教の規定を遵守し、宗教的義務を履行する。彼らは宗教信仰、婚姻、葬儀と埋葬、飲食習慣などの面で、イスラームの伝統を守ってきた。明代の中後期になると、回族社会には、モスク教育と回族学者の漢文によるイスラーム著作の翻訳活動が現われた。モスク教育とは、中国の特徴を有するイスラームの教育制度である。モスクの中で行われ、授業の内容は言語と宗教の二つを含む。言語の面では、主にアラビア語、ペルシャ語を学ぶ。その主な目的は、イスラームの宗教教育、宗教人材育成のためである。ムスリム学者の漢訳活動は主に、一部のアラビア語、ペルシャ語の典籍を漢語に翻訳すること、あるいは漢語を用いて宗教著作を書くことである。その漢文訳著は、儒家の思想によってイスラーム経典を詮釈する方式を取り、儒家の思想と言語を用いてイスラーム教の内容を解明したのである。このため、イスラームと儒家思想の文化的融合をもたらした。モスク教育と回族学者の漢訳活動はイスラーム教の中国化を促したのである。

中国の回族ムスリムは、イスラームの教派においてスンニー派に属す。西北地域の回族は中央アジア、西アジアのイスラームのスーフィー派の影響を受け、その教派と門閥を形成した。

回族はイスラーム文化の普及において重要な役割を果たした。中原地域に移住してきたムスリムはイスラーム教ばかりでなく、アラビア、ペルシャ、中央アジアの文化、とくに天文学、暦法、算数、医学、建築学の科学技術文化をも伝播した。元朝には、「回回司天監」(伝統的な中国式の天文台)、「回回薬物院」などの機構を設置し、多くの回回人がそこで職を持っていた。元朝の文献には、回回天文著作と回回天文機器が記載されている。中国国家図書館には元·明時代の回回医学著作『回回薬方』を収めている。明、清時代には、回族学者が引き続き、天文学や暦法等の関係機構に職を持ち、これらの分野で才能と知恵を生かした。

アラビア語、ペルシャ語は回族に重要な影響がある。モスク教育において、アラビア語、ペルシャ語の学習は重要な内容である。宗教活動以外にも、回族の日常用語の中に一部のアラビア語、ペルシャ語の語彙があり、漢語と混ざって使用されている。

回族は中央アジア、西アジアイスラーム地域と密接な関係を保っている。明代の回族航海家·鄭和は7回も大船隊を率いて海洋を航海し、多くのイスラーム国家と地域に到着したことがある。随行員の回族ムスリムも大きな役割を果たした。馬歓は『瀛涯勝覧』という著書を書き、イスラーム地域の大量な資料を記録し保存した。多くのムスリムは幾多の困難を乗り越え、メッカ聖地へ礼拝し、宗教の修行を行った。また、多くの回族学者は中央アジア、西アジア、インド等の地で宗教と文化の知識を学んだ。中国のムスリムはイスラーム地域から伝来した宗教経典を大切にし、懸命に学ぶである。中央アジアから来た宗教教師も回族社会で尊敬され、崇拝されている。

回族はイスラーム文化の普及、中華文化の充実と発展において、重要な貢献した。回族史の研究も学界の高い重視を受けている。

(孫犂氷訳、區建英校)

コメント

楊共楽 北京師範大学教授

本日午前の数本の報告は、基本的に東アジア諸国間あるいは世界諸文明間の関係を語るものである。学者たちは、それぞれの研究分野で興味を持つ東アジアの文化交流における問題をめぐって、多くの見解を述べた。たとえば、張涛教授は主に「漢唐以来の中国思想と東アジア·ヨーロッパとの文化関係」、張昭軍教授は主に「儒学と東アジアとの文化共有」、王東平教授は主に「回族と中央アジア·西アジアとの文化関係」について報告した。それを聞いて私は多くの啓発を受けた。

日本、ロシア、韓国にしても、中国にしても、各種の文化はそれぞれ自身の独特性がある。さもなければ、その文化の存在自体もなかった。しかし同時に、東アジア諸国の文化は、他国の優秀な文化伝統を導入し、絶えず自分の文化を豊かにするという特徴を持っている。すなわち、東アジア諸国の文化は共に強い開放性を持っている。開放性によって自身の独特性を充実にし、また、独特性をもって自身の文化の更なる発展を勝ち取っていく。これは、東アジアの文化的魅力である。

ここでは、報告者に次の質問をさせていただきたい。1、日本の儒学と中国の儒学は内包においてどんな違いがあるか。2、日本の儒学は中国にどんな影響があったか。3、平山学長の特別講演の方法を真似して、王東平教授に、いくつかのキーワードを用いて回族と中央アジア、西アジアとの文化交流の特徴をまとめていただきたい。

(區建英 訳)

高橋正樹 新潟国際情報大学教授

私は新潟国際情報大学で、国際政治学と東南アジア関係を教えている。また、専門はタイを中心とした東南アジアと日本や東アジアの関係を主に研究している。したがって、張先生、張昭軍先生、王東平先生のご報告に直接、コメントする能力は私にはない。そこで、私は、東南アジア、および国際政治の観点から、19世紀半ば以前の東アジア国際秩序について、簡単に触れたいと思う。

一言でいうと、そこには比較的緩やかな階層的な秩序を特徴とする中華世界がひろがっていた。大国である中国が周辺諸国·諸民族へ権力的な支配や搾取をおこなうような関係ではなく、様々な国家や民族の独自性を容認しながら、中国を中心とする秩序が冊封体制と朝貢体制によって維持されていた。すなわち、朝貢国は使節を派遣して中国皇帝の権威を認め、中国との上下関係を尊重した。これに対して、皇帝は朝貢使節にお返しの品物(これを下賜品というが)を与え、また、冊封の使節を派遣して、朝貢した国の国王を認知して王権を確認した。このように、中国王朝を中心にその権威の承認のために、朝貢という形で周辺地域から中央にモノが移動し、同時にお返しに中央から周辺にモノが与えられ、活発な交易がおこなわれていた。さらに、両者の使節団が相互に訪問することで、ヒトや文化の交流が活発化していた。

具体的には、朝鮮、琉球、東南アジア(ベトナム、シャム、ビルマ、マラッカ、スマトラ、フィリピン)などがその中華世界の周辺を形成していた。たとえば、シャム(タイ)ではスコータイやアユタヤに都があった時代から中国との朝貢貿易は盛んで、中国と密接な関係をもっていたが、中国から政治支配をうけるようなことはなかった。

このような緩やかな階層的秩序は、西欧列強の植民地支配、さらにそれを奪おうとした日本によって、19世紀中期から解体させられた。たとえば、1870年代から、列強は中国の周辺にめぐらされた朝貢国を侵食して、不平等条約を押しつけ、領土の割譲、保護国化、植民地化を進め、中国との伝統的な関係を解消し、強権による支配体制、主権国家的な近代国家の土台をつくっていった。

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